そしてキスからはじまった
「彼女さんって誰のこと?」私の言葉にかぶさるように紫音の声がした。あきらかに怒っている。

なんで私に聞くの?あの日言われたことがショックで名前なんて覚えてない
「さっきの女の人・・名前は覚えてないけど」

「さっきの女?…ジュリアの言う彼女さんってオーナーの事?俺は店で働かせてもらってただけ。
俺の彼女はジュリアだけどジュリアはそう思ってなかったの?」紫音は眉間にしわを寄せてそう私に聞いた。

彼女が私に自分が彼女だって・・あんな綺麗な人が・・

「だってあの人は私に言いました。結婚するからって」

「けっ結婚?・・はぁそんな言葉を信じたの?」じっと私を悲しそうに見る。

信じた?だって疑う余地なんてなかった。彼女の方がふさわしい。輝いている紫音のそばにいるのは・・

そう思ったから・・私はふーと息を整えて

「・・私は紫音にはふさわしくない・・そんなことは分かってました。
でもフランスにいる間はそばにいたいと思ってました。
彼女さんとキスしてるのを見てしまっても・・・朝、紫音が車に笑顔で乗り込んで香水の匂いを付けてきても・・
でも彼女さんは眼中にないって言われても恋人が他の子と暮らすの耐えられない、出ていってほしいと言われました。
・・邪魔だけはしたくなかったんです。紫音の幸せの・・」

ごめんなさい。と小さな声で言って俯いた。

「キスってなんのことだよ。眼中にないなんて事がある訳ないだろう。俺の幸せはジュリアと一緒にいることなのにどうして信じてくれなかったんだ」

紫音は苦しそうにつぶやいた。

キスの事も覚えてないの?あの人はどうして小切手まで用意して私を騙したの?
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