そしてキスからはじまった
紫音side


ずっと一緒にいてくれるよね。すがるように聞いた俺にジュリアはごめんなさいといって部屋を飛び出して行った。
どうして?
子供は俺との子供ではないのか?
ジュリアがまさか他の男と?
だからいなくなったのか?
あの男を見るジュリアの悲しそうな顔を思い出した。

俺は君を探してはいけなかったのか?
俺は動かせる左手で涙を拭った。

「ジュリアに何を言った?」病室の入り口で、怒鳴るように声がした。さっきの男の医者だ。
「ずっと一緒にいてくれるよね。そう言っただけだ。」

「君はまさかジュリアの事を疑っているんじゃないよな」
医者の言葉は俺を責めるような気がした。

「ジュリアは誰か他の男を愛していて俺は経済的にも彼女を助けた。だから一年間だけ一緒にいてくれたのかもと。
俺はジュリアを苦しめてるだけなのか?今回の事も彼女に負い目を与えただけなのか?あんたは何か知ってるんだろう?」
俺は医者に尋ねた。

「父親は一緒に住んでた留学生だと言っていた。君のことだろう?…ジュリアは心臓は悪いんだ。妊娠の診察で分かった。ジュリアには子供はあきらめるように言ったんだけど彼女の意志は堅くてね。宝物だと言って聞いてくれなかった。君と一緒にいることは出来ないと悲しくなったんじゃないかな。彼女は子供を産んだら自分は死ぬと思っている。」

「死ぬって」俺は叫んだ。
「彼女の心臓では出産は死なないまでも危険なことなんだ。」
「どうにか出来ないのか?何かないのか?」
俺はすがるような思いで医者に聞いた。
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