そしてキスからはじまった
私は廊下の隅で息を切らしてうずくまっていた。
「ジュリア・・そんなところに居たら体が冷えて赤ちゃんに良くないよ。
こっちへ来て話そう。」

「セシリア・・」

私はセシリアにうながされて椅子に座った。

「ジュリア・・ごめん・・私、紫音がジュリアを探し回っているのを知ってて何もしなかった。
どうしていいのか分からなかった。このまま会わせていいのか
でも、今、分かった。二人は一緒にいるべきなんだ。
赤ちゃんのためにも二人のためにも
それに子供を産んでもジュリアは死ぬとは限らないじゃない。未来は分からないんだから・・
ねえ・・行こう王子様のところへ・・ほんとに恰好良かったよ。紫音・・」

セシリアに肩を抱かれて紫音のところに戻った。

紫音は足を上につられたままベッドに座っていた。

心配そうにじっと私を見て動かすことのできる左手で私の左手を握って自分の手の近くに置いた。。

「ジュリア、ごめん。
俺・・あの日・・酔って帰った日、ジュリアを繋ぎ止めたくて妊娠すれば俺から離れていかない・・・
あの男のもとに行かないと思って避妊をしなかった。心臓が悪いなんて俺はなんてことを・・
あの男に嫉妬しておかしくなっていたんだ。」

「あの男?」誰の事?
「喫茶店から一緒に出てきただろう?日本人の様だったけど・・」
日本人?
「喫茶店?あ~支店長さんです。私翻訳の仕事してて」
「・・君が悲しそうに後姿を見てるのを見て君を取られると思って俺・・」
「そんなこと・・お父さんに似ていて思い出したら悲しくなったんです。」
「ジュリア、俺は勘違いした。・・ごめん。俺が妊娠なんてさせなければ君は・・」
紫音はうつむいて唇を噛み締めた。
私は紫音の手を両手で掴んで
「謝らないで・・宝物をありがとう。紫音」
「・・ジュリア・・」

紫音は私の涙を左手の親指で拭いて部屋の隅にいたルイさんに声をかけた。

「ルイ・・俺のバックを取って」
ルイさんはソファに置いてあった紫音のボデイバックを取った。

「サンキュ」と軽くお礼を言って紫音はバックに手を入れた。そして四角い小さな箱を取り出した。

「遅くなったけどジュリア、俺と結婚してほしい。」

箱から指輪を取り出して左手の薬指に入れた。

「イエスしか言わないで」

「あの指輪?」

うんと紫音がうなづいた。

「ありがとう・・紫音」

私は涙を流して指輪を見つめた。

「結婚してくれるよね?ジュリア?」

「紫音・・私は心臓が悪いの?赤ちゃんを産んだら、たぶん」

紫音は私に唇に指をそえた

「一緒に居たいんだ。もう離れたくない。俺はあきらめないよ。君と子供と生きていくんだ。」





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