空と月の下
静かな環境の中、美菜の突然の行動は、相手にも伝わり、振り向かれた側の相手も顔を上げた。




「………」




美菜の瞳には、甲斐と沙紀が二人寄り添うように座っているように見える。

実際に甲斐と沙紀は、広い机にテキストとノートを開き、横に並ぶように席に座っている。
そして、その距離は近く、肩と肩が触れている。



美菜は甲斐と視線が合っていた。
沙紀が美菜を見ている視線も感じる。


いつもなら軽く声を掛けれるはずなのに、なぜか声が出ない。




「ねぇ、甲斐。ここ、なんだけど…」

「あ、あぁ…ごめん。ここね…」




いつもなら軽く声を掛けてくれるはずの甲斐も、なぜか美菜と視線を合わせても何も言わず、沙紀の差す質問に答え始めた。


美菜が知っている甲斐じゃない。


逸らせない視線は一方通行のまま、美菜は突き放されたような感覚に陥った。


先ほどまで視線が合っていた甲斐と沙紀の二人は仲良くテキストに視線を戻している。



何なんだろう、この感覚は。
どうしてこんなにも不安な気持ちになるんだろう。
どうしてこんなにも悲しくなるんだろう。

どうしてこんなにも胸が締め付けられるんだろう。



美菜はゆっくりと前を向くと、勉強をする準備を再開させる。
けれども、もう、美菜自身は勉強をする精神状態ではなく、甲斐と沙紀の二人の会話を夢中になって聞いていた。

どんなに小さな会話も聞き逃すことはできない。

それほど美菜は必死になっていた。



聞こえる会話は他愛ない。
聞けば聞くほど、美菜は疎外感を感じる。


それが分からないわけじゃない。
けれど、美菜はその時間を懸命に耐えた。


そして、ついに耐えていた時間に終わりが来る。
< 28 / 42 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop