バーテンダー

ジーンズにラフなブラウスを羽織り、どこにでもいる男性のように見えた。


警察官には思えない。


これは、前に付き合っていた頃からそうだった。警官らしくない警察官。


「突然呼び出してゴメンね」


「いえ……こちらに帰ってきてたんですね」


「ええ。四月に移動があって五年振りにこっちに帰ってきました。佐倉さんは前と同じ勤務先?」


「はい……出会いが無くて、そのまま勤めてます。姓が変わってなくて呆れたでしょ?」


「いえ……逆です。凄く、嬉しかったです」


「え? 嬉しい?」


「畑や田んぼに囲まれた駐在所勤務だったので、すっかり色恋沙汰を無くしていた自分が、昨日偶然佐倉さんを見かけて昔を思い出したんです」


「そうですか……」


急に熱くわたしに訴えるような視線を向け
「忘れていた熱い物が込み上げて来て、もう一度会いたくて仕方がなかったんです。書類に書かれていた姓が佐倉のままだったので、飛び上がるくらい嬉しかった」


お互いが注文したコーヒーを飲み終えた後、真面目な面持ちでいきなり頭を下げて来た。


「佐倉さんさえ良ければ、結婚を前提にもう一度付き合って貰えませんか?」
 


こんな形で、彼から二度目のプロポーズを受けるとは思っても見なかった。
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