バーテンダー

どれほど前からこの付近にいたのだろうか?

夏も終わり、朝夕涼しくなってきたこの時期だが、夜風に当たり過ぎると、身体はこのように冷え切るものなのだろうか?

それにしても、俺の耳を甘噛みした女の唇はとても冷たかった。

女を背負ったまま、飲み屋街を歩いた。

点々とする寂れたネオン街は、繁華街から外れているせいもあり、飲み歩く人は少ない。

それでも店が成り立っているのは、この界隈は選りすぐられた店が多いからだ。

飲み歩く人は常連客が多いし、隠れ家として使用する人も多い。それなりにわけ有りな人間が多いのは確かだ。

人の道に外れた関係を持った男女のカップルが利用すれば、文字どおり隠れ家だ。

背中の女は……

どこか、寂しげな女だった。

前に回された腕の左手に目をやると、薬指に指環がなかった。

それを外した白い痕さえ残っていない。

白くて綺麗な指先だった。

人の道に外れた……

そんな匂いのする女だった。



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