バーテンダー

この商売の悪いところは、こうして人が分かってしまうところだ。

ヤクザの女だったり、水商売の女だったり、この女のように、不倫に疲れた女だったり。

そんな女たちの過去を勘ぐるとキリがない。

子供を置いて逃げてきたとか、十代の時に家出したままだとか、若い男に貢いでいるとか……

この世の不幸が混じりあって、この寂れたネオン街を作り出すのかと思うと皮肉に見えてくる。

欲にまみれ、それだけを追い求め、ガムシャラに走ることしか出来ず、後を振り返り何も残していない自分に気付いても、それでも走り続けることしか出来ない哀れな人々。

そういった匂いを纏う人間を直ぐに嗅ぎ分けられる商売だが、その分、誰より優しい言葉を見つけることができる。

そんな世界に俺は永年住み続けている。

「少し、酔いが覚めましたか?」

「うん。お兄さんの背中が気持ち良くて眠ってしまいそう」

冷たい息のまま、女はそう呟く。目を閉じているのが見なくても分かるほど、さっきより声に力が無い。

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