バーテンダー
「寝ていいですよ」
「アハハ。男に寝ていいですよって言われたの初めてだ。寝ずに俺を楽しませろってばかり言われていたからな」
「それは酷い男ですね」
「ねえ。お兄さん聞いて。わたしさ。その酷い男しか知らないんだ」
目が覚めたのか、急に声は弾み出した。
「一人? 今時、珍しいほど、一途な方なのですね」
「そうでしょ? 珍しいでしょ?わたしね。そいつと十九からずっと付き合
ってたの」
「十九?」
「そうよ。田舎から出てきたばかりの右も左も分からない女だったの。そんな女をさ、妻幼児付きの冴えない男が騙してさ……酷いと思わない」
「それで、なん年、付き合ってたんですか?」
「十年」
「十年?」
「そう。十年間ずっとその男しか知らずに生きて来たの」