バーテンダー

「本当に一途ですね」

「だって、その男と結婚するつもりでいたから」

女の声がまた、弱弱しくなった。

結婚するつもりでいたから……

真面目な女らしい。

一途な不倫……過去形が全てを物語る。

可哀そうな女だと同情するのは容易いが、その後の反動が女を余計に傷つけることになる。

「僕の勤めるバ―はもう直ぐです。この後の話は、バ―で伺いますよ」

「わたしの話を聞いてくれるの?」

「ええ。何時間でも付き合いますよ」

「お兄さん、いい人だね。やっぱり、あと一時間早く、お兄さんに出会ってれば良かったな」

「僕もそう思います。どこのバ―で飲んだか知りませんが、ドンペリ、高かったでしょう?」

「分かる?ドンペリを飲んだこと」

「はい。匂いで分かりますよ。身体中から香りが漂ってます。僕もバーテンダーの端くれですからね」

「お兄さんは……この匂い嫌い?」

「いいえ。好きなほうですよ」


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