バーテンダー
「そうは思いませんよ。三十代になって、急に美しくなる女性もいますからね」
「そうなの?」
「ええ。たくさん知ってますよ。そのような女性を。離婚して美しくなる女性もいますし」
「そう……やっぱり、お兄さんと、あと一時間早く出会いたかったな。その慰め言葉を早く聞きたかった。こんなに高いシャンパンを浴びることもなかったのに……」
そう言いながら、また、俺の背中に顔を押し付けて泣き始めた。
何も言わず、女を背負ってバ―のドアの前に立った。
あの自販機から随分と時間が経った気がした。
「あと一時間早く、お兄さんに会いたかった……」
蚊の鳴くような小さな声で、俺の耳を甘噛みしながらそう呟いた。
性的なアピールのように思えた。
そんな女の仕草を振り切るように
「ここが、僕の勤めるバ―ですよ」
そう言って振り返ると、急に背中が軽くなった。