闇夜に真紅の薔薇の咲く
†第4章†
長髪の彼に手を引かれるがままに連れてこられた場所は、今や物起きと化している空き教室だった。

今もそれなりに生徒数が多いこの学校だが、昔は倍以上の生徒がこの高校に通っていたらしく、校内のいたるところに空き教室は存在している。

朔夜が連れてこられたのは、三階に存在する空き教室の内、最も使用されている教室から遠い部屋だ。

足を踏み入れた瞬間にむっとした熱気と、何とも言えない悪臭が鼻をつき、朔夜は思わず眉をひそめるともっていたハンカチで口元を押さえた。



「……入る部屋間違えたか」



目の前で埃が積もった机を指で撫でた彼は、己の指に付着した大量の埃に不快そうに眉をひそめてふっと息を吹きかけ吹き飛ばす。

それを横目に見ながら、朔夜はぐるりと室内を見渡した。

部屋のいたるところ蜘蛛の巣が存在し、棚や机には埃がこれでもかと言うほど降り積もっている。

一目で掃除をしていないことが分かるこの部屋は、恐らく理科室だったのだろう。

棚に並べてあるよく分からない薬品を一通り見やり、長髪の彼へと視線を戻す。

彼は彼女同様室内をぐるりと見渡すと、一つため息をついて蜘蛛の巣が絡まり埃の降り積もった窓に手をかけた。

朔夜ならば触れることも不可能な窓の鍵を開け、窓を開く。

が、風が吹いていないため部屋の埃っぽさが少しマシになった程度。

身体に纏わりついてくるような蒸し暑さは変わらない。そのことに軽く舌打ちしたい気分になったが何とかこらえ、視界にちらつく金の髪をぼーっと見つめた。

――初めて見る彼。面識は全くなく、知り合いに似てもいない。

なのに何故か自分は、彼のことを知っている。

それは街中で見かけたとかそういう類いのものではなく、どこかで会って話したことがあるようなそんな類いのもので。

朔夜は思わず自分の胸元をぎゅっと握りしめる。もどかしい。

知っているはずなのに、分からない。頭の中では確かに何かが思い浮かんでいるのに、まるで深い霧がかかったようにはっきりとしない。







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