闇夜に真紅の薔薇の咲く
目を見開き、僅かに強張った彼の表情がふと柔らかな笑みへと変わる。

不意をつかれた朔夜は息をつめ、その笑顔に目を奪われた。

いつの間にか、重たい雲はところどころ切れ、そこから柔らかな陽光が地上へと射しこむ。

どこか幻想的な空を背景に、柔らかな笑みを浮かべる彼はさながら天使のようで、朔夜は無意識にぽつりと呟いた。



「……綺麗」



元々、あの死神たちと並ぶ美しさの持ち主だ。

何の暗い光も無い。

心からの笑みを浮かべたならば、それはそれは美しいだろうとは思っていたが、まさかこれほどまでとは思わなかった。

ともすれば、彼の背後に見える純白の翼を頭をふって振り払うと、ふわりと未だ血が滴り落ちる手を取られ、朔夜は驚いて顔をあげる。

そこには痛ましげに眉を寄せた青年が、固く握られた指を優しくほどいてゆく。




「――……申し訳、ありませんでした。その、怖がらせてしまい……」

「え? や、大丈夫大丈夫! 全然怖くなかったよ!」

「……また、ばればれの嘘を」



彼はどこか遠くを見つめるように顔をあげると、ふっと柔らかな笑みを浮かべる。

“また”その言葉に引っ掛かりを覚えながら、朔夜が誤魔化しの笑顔を浮かべた時。

突如、バンッと大きな音を立てて扉が開き、朔夜は肩をすくませると恐る恐る背後を振り向いた。



「あ……ノアール……?」

「朔夜! 無事か!?」



扉を開いた体制のまま、出入り口に額に汗を浮かべて肩で息をする彼の姿を認め、安堵の息をついた瞬間、身体の力が急に抜けてふっと視界が真っ暗になった。




「え……?」



戸惑ったのはほんの一瞬で、声をあげた瞬間彼女の意識はゆっくりと闇へと沈んでいった。









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