闇夜に真紅の薔薇の咲く
「……貴女は、私を憎んではいないの?」

「え?」



恐る恐るといったように呟かれた言葉に、朔夜は目をぱちくりとさせる。

しっかりと握った手は恐らくは緊張で微かに震えており、朔夜は言葉を選ぶように上空を仰ぐ。

(憎む、かぁ……)

憎むと言うか、恐れていたのは本当だ。

来世にまで影響を及ぼす"罪"を犯した姫君。

たかが人間の娘を殺そうと、死神二人を寄こすほどに自分の存在は――性格には、塗り替えられたロザリ―の魂は――、魔界にとって危険視されている。

返事が返って来ないことをどう解釈したのか、ロザリ―は何故か朔夜の手から逃れようと必死になっているのだが、いかんせん彼女の力は弱く、普通の女子高生である朔夜でも軽々と抑え込めてしまう。

朔夜は闇の向こうを見通すようにしっかりと見据えると、人懐っこい笑みを浮かべた。



「憎んでないよ」

「え……」

「っていうか、私まだ、憎むほどあなたのこと知らないし……」

「そ、そんな……」




慄いたように、彼女の声が震える。

そして不意に、腕が引っ張られたかと思うと次の瞬間にはかなり間近に人の気配を感じて、朔夜はびくりと身をすくませた。

ロザリ―のフワフワとした……恐らくは髪が、時折彼女の腕に触れる。



「わ、私がいなければ、私が罪を犯していなければ、あなたは……あなたは、普通の人生を歩んでいられたのよ!?」

「でも、あなたがいなければ、罪を犯していなければ、私は私じゃなかったかもしれない。生れてなかったかもしれない」

「――っ!」

「だから憎むッて言うよりは、感謝してる……、かも」




断言できないのは、自分の気持ちがまだ揺らいでいるから。

正面から視線を逸らすと、朔夜がほぼ無理やり握っていた手に、ふわりと温かい手がそえられる。

驚いて、弾かれたように正面を見た朔夜は、そのまま息を呑んだ。

(――……目が、見える)

黒に塗りつぶされた、闇の世界。

ロザリ―と朔夜とを遮っていた、深い深い闇が、晴れた。

お互いが、驚きで目を見開き、息を呑む。

(なんて、綺麗な人……)







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