闇夜に真紅の薔薇の咲く
握られた手に、力が込められる。

話しの内容で泣いている者が誰なのか。瞬時に悟った朔夜は目を見開いた。



「“闇の姫”……さん?」

「……っ」



彼女は息を呑むと、何かにそろそろと朔夜の手を離す。

それに気付いた朔夜は逃がすまいと彼女の手を握ると、しっかりと前方を見据えた。

間違いない。彼女は――“闇の姫”だ。

自分が命を狙われる原因となった、朔夜の前世。

手を握られると思っていなかったのか、彼女がびくりと身をすくませたのが振動で伝わり、朔夜は苦笑を零す。

(すっごい、怖がられてるな。私……)

本来ならば、自分が恐怖を抱いて然るべき相手に怖がられていることに、何とも言えない気分になりながら朔夜は彼女を引き寄せる。

短い悲鳴をあげた彼女が確かに近くにきた気配を感じると、朔夜はおもむろにギュッと彼女を抱きしめた。




「ねぇ、名前は……?」

「わ、私の?」

「そう。貴女の名前。私は朔夜って言うの」

「私……は、ロザリー」

「ロザリーちゃん」



名を呼ぶと、ロザリーがびくりと身を震わせる。

何だか小動物みたいな彼女母性すら抱きはじめた朔夜は、不意に悲しそうに目を細めた。

――彼女は、自分の犯した過ちを“罪”と認めて反省している。

ロザリーが過去、何を犯してしまったのか。彼女の次の世に生まれた朔夜には分からないけれど、魔界に命を狙われ“災厄の姫”とまで称されるほどだ。余程のことを犯してしまったのだろう。

彼女が転生した存在すら疎まれるほどの何かを……。

平和な世界に生まれた自分は、それがどんなことなのかは全く見当がつかないけれど。





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