夢現
思い通り
缶ビールを片手に、公園のベンチに座る。
「あちっ」
思わず声を上げて、手に持っていた煙草を落とす。
気づかないうちにフィルター近くまで火がきていたらしい。
ついてないな、そんな風に思いながら足元に落ちた煙草を見た。
溜息をついていると、目の前に知らない子どもがたっている。
「ついてないと思っているんだろう」
いきなり現れた子どもに、自分の気持ちを見透かされた気がして驚いた。
「まあ、ついてないな」
子どもに答えた。
「願いごとを叶えてやるよ」
目の前の子どもが、わけのわからない事を言った。
「何だ、何を叶えてくれるんだ」
ちょうど暇だったので、子どものたわごとに付き合ってみた。
「お前が望むこと、何だって叶えてやれるさ」
夜の公園、人気のないベンチで笑った。
「そうか、そうか。何でもか。じゃあ、この先の未来が全部思い通りになるようにしてくれよ」
そう答えた。
子どもは真顔で「分かった」とだけ答えた。

次の瞬間、目の前は真っ暗になった。
「何だ?」
驚いていると、あの子どもの声が響いた。
「お前の思い通りの状態だ」
「いや、こんな真っ暗な状態がいいなんて思ってないぞ」
反射的に素直に答えてしまった。
「違うよ。この状態を望んだんじゃない。何も望んでいないから、こうするしかなかったんだよ」
また、子どもの声が響く。
俺は絶句した。

しばらく、何にもない真っ暗な世界を眺めていた。
向こうにぼんやり光が見えた。
「あれは何だ?」
こうなればもう、あの子どもに頼るしかない。
「お前、今これは嫌だから何とかしなければならないと考えただろう。その考えがあれだ。でもその形がないから、形にならない」
そんな漠然とした内容で、こんな世界に閉じ込められても困る。
光はかすかなもので、つかみどころがない。

気づくと、ベンチに座っていた。
周りを見渡す。
足元には燃え尽きた煙草と、缶ビールが転がっている。
何が起こったのか分からない。
「何にもないよりは、元の状態の方がましだと思っただろう」
あの子どもの声が聞こえた。
俺は力が抜けて、とてもだらしのない格好でベンチに座っていた。

「思い通りにしたい」と思っても、所詮何が「思い通り」なのかも分からなかったのか。
それじゃあ、ついているもいないもないな。
軽く子どもに踊らされているような気もしたが、妙に晴れ晴れした気分で足元に落ちたごみ2つを拾い上げ、ごみ箱に捨てた。
さて、今やりたいことはなんだろうな。
そこから探すか。
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