まばたきの恋
『一目惚れして付き合った』と言う友達にどこが好きになったかを聞いたら『なんとなく』と返された。
七菜子にとっては”なんとなく”の響きがとてもふわふわとして聞こえていた。
”なんとなく”人を好きになるの?
いずれは”なんとなく”人を嫌いになっていくの?
心に渦巻いたその靄はなかなか晴れずに、留まり続けていた。そして。
”一目惚れなんて、するもんじゃなかったな”
七菜子の心に釘を刺した、遠い日の言葉が、今も焼き付いて離れないのだ。
「勝手にこんなこと言われても、困るよな。ごめん」
七菜子が我に帰ったとき、彼は辛い表情を浮かべていた。
何か言わなきゃ、と口を開けた瞬間、彼は立ち上がり背を翻した。
「じゃあ、また」
そうして取り残された七菜子だけが掻き回されて、呆然と立ち尽くしていた。
(なんなの、あの人)