まばたきの恋
木の葉舞い散る空の下、袖を引っ張る七菜子はこの日も図書室へ来ていた。
カウンター当番ではないこの日、七菜子は勉強道具を広げて難しい顔をしていた。
付き合わせた席にいるのは、奏多だ。
慣れたように彼は本を捲る。季節は進んだが、その目線はじっくりと文字を追いかけるようになっていた。
「少し休憩したら?」
奏多の一声で、張り詰めていた緊張感はすぐに解けていく。七菜子はひとつ背伸びをした。
「いいね、奏多くんは。合格は決まったも同然だし」
ちょっとした嫌味を言うと、指定校推薦の奏多は苦笑した。
「そんなこと言わないでよ。俺は楽な方に逃げたんだから」
「逃げてなんかないよ。やりたいことがあって進みたい大学に志望したんでしょう。至極全うな理由じゃない」
遠くのテーブルにも受験生が腰掛けている。お互いが棘を刺さぬように小さな声でやりとりをした。
「休憩の時ぐらいは勉強の話はやめようよ」
「やめられないよ。受験生なんだから」
実際話をしてみると、七菜子は想像以上に頑固なことを知った奏多は苦笑した。
そうして出口の方を指差して、ひとつ呟いた。
「何か飲み物買わない?」