まばたきの恋



二人で階段を降りるとき、微かに七菜子は頬を緩ませた。


この日、図書室で奏多に会うのは偶然だった。


通年委員の仕事をしている七菜子は、これまで当番の日だけ奏多の姿を見ていた。


しかし話を聞いてみると奏多は本を借りるようになってから、図書室へ赴く回数が増えたのだという。


いよいよ終盤に差し掛かった受験シーズンを期に、用事のないときには図書室へ向かうことを控えている七菜子とは対照的だった。



お互い連絡を取り合う仲ではない。学校で顔を合わせれば取り留めのない話をする、ただそれだけの仲だ。


友達と呼ぶにはおこがましく、他人と呼ぶには馴れ馴れしい。その微妙な距離感に、七菜子は少しずつ戸惑いを感じていた。



だからこそ、この日の出来事は七菜子にとって大きな意味をもっていた。




自動販売機が設置されている玄関前のロビーには、コの字型のベンチが二つ、それとは別に両方の壁際にもベンチが取り付けられている。


玄関とは反対側の大きな窓の外には中庭がある。


すっかり秋めいた窓の外を背に、七菜子は缶ジュースのプルタブに手をかけた。



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