ダブルスウィッチ



鳴り続けるバイブの振動音。


テーブルに置いたままのスマホを、彩子はただ眺めていた。


それを手にすることなく立ち上がると、キッチンと言えるかわからないほどの小さなスペースに移動する。


可愛らしいサイズの冷蔵庫を開けると、中には飲むヨーグルトとハムと卵、それとカット野菜。


彩子は大きく溜め息をつくと、飲むヨーグルトだけを手に取った。


まだ鳴り止まないスマホの振動は、きっとえみりからのSOS。


(いくらなんでも早すぎでしょ?)


壁にかかっている安っぽい木枠の白い時計をちらりと見ると、まだ針は8時半を指しているところだ。


大方、亮介の扱いに困ってるといったとこだろう。


甘い夫婦生活を夢見ていたえみりには耐え難いものだったに違いない。


今頃、騙されたことに気づいて、彩子に文句の一つでも言おうと必死にコール音を鳴らしてるのかもしれない。


それをわかっている上で、彩子はそれを取るつもりはなかった。


まだ目覚めて一時間ほどしか経っていないのだ。


彼女にはもう少し頑張ってもらわないと復讐にはならない。


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