ダブルスウィッチ
コール音の後に響いたのは、低めの甘い声だった。


その携帯が自分のものだと伝えると、彼は警察に届けるところだったと言った。


どうやら店ではなく道端に落ちていたらしい。


「拾っていただいてありがとうございました」


えみりがそう言うと、彼は少し間を置いてから、いえ……と遠慮がちに答えた。


「近くの交番に届けておきますから、後で取りに行ってください」


えみりは驚いた。


当然、どこかで落ち合い直接渡してもらえるのだとばかり思っていたから……


「あの、今、どの辺にいらっしゃいますか?」


交番なんて面倒だ、とえみりは思う。


何か調書みたいなものも書かなくてはならないし、たぶんこの彼にも面倒な思いをさせてしまうに違いない。


彼が告げたのは、ここからそう遠くない場所にあるカフェの名前だった。


「もし、お時間があれば、これからそちらに取りに伺いたいんですけどダメですか?」


いや……ダメじゃないけど……と口ごもった彼は、なかなか煮え切らない。


少しだけイライラしながら答えを待っていたえみりに、彼はこう言ったのだ。

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