ダブルスウィッチ



トゥルルルル……トゥルルルル……トゥルルルル……


最近、電話に出るのが遅くなった気がする。


初めの頃は、すぐに気取った声が彼の名字を名乗っていたのに……とえみりは思う。


ここ何ヵ月もの間、毎日昼休みになると電話をかけることがえみりの日課になっていた。


なぜこんなことをしているのか、自分でもよくわからない。


嫌がらせと言われてしまえば、そうなのかもしれないと自覚はしていた。


けれど、43歳にしては可愛らしい声をした彼の妻に、嫉妬していないと言えば嘘になる。


何不自由なく専業主婦として、あの素敵な家で彼を待つ生活をしているんだと思うと、無性に腹が立った。


だから、思い知ればいいとえみりは思う。


彼はあなたに満足していないんだってことを……


えみりが亮介と知り合ったのは、もう一年も前のことだ。


忘年会シーズンで飲み歩いてたえみりが、携帯電話を落としてしまったのがきっかけだった。


立ち寄った店全てに足を運んだけれど、お預かりしていませんの一点張り。


諦めかけたときに、ふと思い付いて公衆電話から自分の番号にかけてみたのだ。



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