ダブルスウィッチ
その名を口にしたときの、亮介の顔を彩子は忘れないだろう。


いろんな思いが頭の中を駆け巡ったに違いないけれど、努めて冷静さを失わないよう必死でごまかすようなそんな表情。


それは一瞬の間だったのかもしれないが
、彩子には長い沈黙のように感じられた。



「……いい、名前なんじゃないか?」



絞り出すような声で、そう言った亮介の困ったような笑顔は、彩子がこれから切り出そうとしている話への後押しとなった。


愛しいと思っていた女性と、自分の娘が同じ名前など嫌に違いないのに、彩子を気遣ってなのか反論もしない夫。


そして、自分で決めたこととはいえ、彩子は今後目の前で亮介が娘の名を呼ぶたびに、彼女を思い出すのだ。


ふぅ……と、小さく息を吐いてから、彩子はゆっくりと起き上がった。


小さな彩子の分身は、今は別の部屋の保育器の中で眠っている。


少しだけ体重が少なかったことと、黄疸が出ているためだと、看護師さんから話を聞いていた。


心配だけれど、彼女がいない今が亮介にあの話を切り出す絶好のチャンスだった。



「……亮介さん、はなしがあるの」



半身を起こし、椅子に座る亮介と目線の高さが一緒になった瞬間、彩子は彼をまっすぐに見つめそう言った。







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