ダブルスウィッチ
そう思うとやはりあの頃には戻りたくないと思うのだ。


そして相手から離婚される心配がないという安心感は、浮気相手の女にはけしてないものだと彩子はほくそ笑む。


だからといって浮気されてる事実は消えないし、傷つかないわけじゃない。


いつか自分の方を亮介が向いてくれるなら、それが一番いいに決まってる。


小さなピアスをそっとエプロンのポケットに落として、目の前の洗濯物を片付けていく。


家事をすませて一息ついたとき、また電話が鳴った。


規則正しくかかってくる無言電話は、彩子にもう昼だということを知らせてる。


どうりでお腹がすいてるはずだと思いながら、ゆっくりとソファーから立ち上がった。


白い受話器を見下ろしながら、よくやるもんだと口の端を上げる。


小さく息を吐き出すと、受話器をそっと耳に当てた。


相変わらず何も話さない相手に、彩子はいつものように名乗るのをやめて、開口一番こう言った。


「亮介がいつもお世話になっております」


切るだろうかと思われたけれど、なかなか根性がある。


息を呑んだ気配はしても、電話を切ろうとはしない。
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