ダブルスウィッチ
だから続けざまに言葉を繋ぐ。


「ダイヤのネックレスはお気に召しました?」


自分があげたわけじゃないけれど、主人がプレゼントしたことは知ってるんだと言いたかった。


あくまでも妻として、上から目線でいなければやってられない。


電話の向こうで明らかに動揺しているのが、手に取るようにわかる。


彩子は静かに笑みを浮かべていた。


散々優位に立っていると思っていたんだろう相手は、急に逆転したことできっとパニックになってる。


それきり彩子は何も言わなかった。


黙ったまま、いつもは自分から置いていた受話器を耳に押し当て相手が電話を切るのを待つ。


ほどなくして、呆気ないほどに電話は切れた。


明日もまたかけてくるだろうか?


そんな度胸のある子なら会ってみたいと彩子は思う。


静かに受話器を置いて、またソファーに座る。


さっきいれた紅茶は、すでに冷たくなっていた。


口をつけようとして、カップを元に戻す。


さっきまで憂鬱だった気持ちが、晴れていく気がした。


年明けから3ヶ月――


それは彩子がこちらから投げた、初めての意思表示だった。

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