ダブルスウィッチ
知らない番号からの着信が、ここ一週間くらい立て続けにあった。
誰だろうと思いながらも、えみりはそれをやり過ごしていた。
ちょうど仕事中だったのもあるし、かけ直すのは気が引けたからだ。
けれど今日、たまたまかかってきたとき、えみりはちょうど休みで家にいた。
だから怪しみながらも出てみたのだ。
「……はい」
あえて名乗ることはしない。
何かの詐欺だったりしても困るからだ。
すると向こうから聞こえてきたのは、意外にも聞き覚えのある声だった。
『こんにちは……あの、森野ですが……』
間違いない。
亮介の妻だと気づいたえみりは、ゴクリと唾を呑み込んだ。
電話してきたってことは、えみりが夫の愛人であることはバレているってことだ。
けれど彼女も、自分からかけてきたわりにはどう切り出したらいいのかわからない様子だった。
えみりは何度も聞いた声だけれど、向こうはえみりの声を知らないはずだ。
いつも無言で彼女の声を聞いているだけだったから……