ダブルスウィッチ
怒鳴りつけたっていいくらいのことをえみりはやってきたのに、彼女はなぜか遠慮がちに言葉を繋ぐ。


『あなた……夫と、関係がありますよね?』


彼女はえみりの名前も知らないようだった。


そんな相手に、関係ありますよね?と聞かれて関係があると答えるほど、えみりはバカじゃない。


「かけ間違いじゃないですか?」


だから努めて優しくそう答えた。


知らないと。誰かと間違えてるんじゃないかと。


『夫の携帯からこの番号を見つけました

だから今さら知らないふりなんてやめてください』


それでも彼女は声を荒げることなく、責めるわけでもなく、えみりを気遣うような口振りで話しかけてくる。


「……」


それでもうんとは言えなかった。


彼女の目的がなんなのかはわからないけれど、認めることは亮介との関係が壊れることを意味している。


ましてや、この電話の相手は亮介の妻なのだ。


えみりが躊躇するのも無理はない。


ソファーベッドに寝転がっていた体をゆっくり起こして、えみりは床に置いてあった大きなビーズクッションに身を沈める。


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