地方見聞録~人魚伝説譚~







 自分は人魚だ。その気になれば故郷へ戻れる。だが私はそれをすぐに実行に移すことはなく、こうして村に居させてもらっている。


 村人の中にか「ここに住んでしまえば?」という者も出てきた。居場所が出来つつある。





 まるで太陽のように笑う人間の女。

 好奇心旺盛で、私に質問してくる姿はまるで子供のようなのに、子供たちの面倒を見る姿は母親。
 家族がいないと寂しげに星を眺める姿も――――気がつけば目を奪われてしまう。見ていたくなる。



 "見ていたい"から。




 仲間のもとへ戻れば、己をさらった人間を疑うようになるかも知れない。
 ただでさえ私の先祖の悲しみが、人魚たちを拒ませる。






< 59 / 120 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop