Fairy And Rose
「…ねぇ、ハンターさん?
貴方、恋人はいらして?」
「はて、そんな役に立たないものが必要ですか?
君は面白い事を言いますね。
そうだ、声帯もそのまま喋れるように…」
───この人間は知らない。
誰かを愛する事がどんなに素晴らしい事かを、どんなに大切な事かを。
フリージアはさも可哀想なモノを見るような目で、ハンターを眺めた。
「……」
視線を外し、静かに目を閉じる。
───思い出されるのはアトールの姿、声、表情…全て。
その全てが愛おしくて仕方が無い。
今、アトールは泣いていないかしら?
笑っていてくれてるかしら?
出来る事なら、ずっと一緒にいたかったけれど…
貴方が辛い思いを永遠にするなんて、私が辛い。
アトール、大好きよ
「…さようなら」
「!」
フリージアの体が眩しいほどの光に満ち溢れる。
その眩しさを予知していなかったハンターは、思わず目を瞑った。
フリージアは全身から絞り出せる限りの力を、この黒い森に注いだのだ。
この森が永遠に残るように呪いをかけて。
───永遠に残りさえすれば、いつかはまたアトールに…
黒い森が白い光に照らされる。
全てが白に包まれた。
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「くそ!やれましたよ、まんまとね!」
ハンターは地団駄を踏んだ。
それもそうだ、目の前で獲物を逃してしまったのだから。
「あまく見ていた私の失態ですか…チッ」
酷く冷たい目が花を蹴散らす。
ハンターは一つの花を踏み躙った。
「…もうここには用無しです。
全く、無駄な時間でした」
ハンターはその長い髪を靡かせ、黒い森を出ていった。
ハンターがいたそこには、ただ踏みつぶされた花が残った。
…フリージアの花が。
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