今宵、桜と月の下で
もしも十年前の月があるのなら、君に見せてやりたい。

俺は、カメラ越しにしか君を見たことがない。肉眼じゃ、小さくてよくわからない。

直接声をかけに行く度胸もきっかけも、ない。

だからずっとカメラ越し。

はらはら路面へ積もる花びらを見やる。

つもり積もった桜色は綺麗だが……俺の心の中はとっくに大洪水だ。

そんなことを思っては、俺は単なる覗きじゃないかと軽く自嘲してやる。

自分の中に生まれた波を誇る反面、身動きできないで窓にへばりついている俺が、情けなくってしょうがなかった。

彼女は、俺に気付いているだろうか……?

こっちから向こうが見えるなら、向こうからこっちも見える。

でも仮に見えていたとして、俺と同じ気持ちを抱いているなんて、そんな奇跡、ありゃしない。

どんなに可憐に積もった花びらも、朝が来れば靴に踏みつけられてしまう。

現実はいつもそんなもん。手厳しい。
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