今宵、桜と月の下で
もしも百年前の月があるのなら、君に見せてやりたい。

僕が彼女に気付いたのは、こうしてカメラを構えて、部屋からのんびり花見公園を撮ろうと思った時だった。

夕方、彼女がベンチに座っているのを見つけ……待ち合わせでもしてるのかと思えば、そうでもなかった。

その次の日も、彼女は夕方からいた。

次の日も、次の日もやっぱりいた。

初めは、なんなんだあの女、と思った。

だけどその時にはもう、毎夕彼女がそこにいるかどうか、カメラを構えてチェックしている自分がいた。

俺はカメラマンだ。カメラマンといえば芸術家だ。

芸術家がこんな有り体な言い方しかできないのは悔しいのだが……たぶん、俺は彼女に惹かれているのかもしれない。

春の闇から現れていようが、桜の精だろうが、なんだっていい。

たぶん、彼女に惚れてる。
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