メインクーンはじゃがいもですか?

 呼吸を落ち着けると、
 世間一般の表面から換金できない霧吹一行は、しっかりと裏口から大金を換金し、いそいそと巣鴨へと直行した。

 どこでもいいと言った葵だが、まさかのスナックとは思いもしなかったようだ。

 24時間営業の『スナック赤パンツ』は昼間は巣鴨のお年寄りのオアシスとなっていた。みたらし団子片手に渋い茶で喉に流し込みながら話に花を咲かせるおばぁたちを横目に、奥のVIPへと入って行く。

「って、なんでここなんですか」

 葵は周りに気を配りながら静かに怒る。

「どこでもいいって言っただろうが。この辺じゃここが一番落ち着ける」

「でもここって!」

「あ、ママ、ちょっと」

 葵の言葉は無視し、奥にいるママに声をかける霧吹は慣れた手つきで指を鳴らす。

 はいはいとエプロンで手を拭きながらやってきた『ママ』は、どこにでもいるそのへんのおばちゃんにしか見えない。

「いつもの、フェラガモ丼をくれぃ」

 一つ間を置き、はいはいと呆れた顔でキッチンへ戻るママは、葵には見向きもしなかった。

 あ。女の人連れて来るのなんて普通のことなんだなぁ。と、葵がちょこっとだけがっかりして嫉妬する。しかしながらその心情がどこからくるものなのか、葵にはまだ分からなかった。

「でも霧吹さん、フェラガモ丼って一体なんですか?」

 それってなんかのブランドなんじゃ?

「フォアグラはさ、あたしは動物虐待だと思ってるからね、うちじゃそう呼んでるんだよ」

 キッチンからママの声が飛ぶ。

 ってことは、

「もちのろんで、ここのオリジナルだ。フォアグラはここにはない」

「私、食べたことすらない」

「お嬢ちゃん、そんなもん食べなくていいんだよ! わかったー!」

 びっくりして「はいー」と反応する葵は知らずのうちに心臓付近らへんを抑えていた。


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