メインクーンはじゃがいもですか?
「かたぎのねぇさんはさ、こっちに首突っ込まないほうがいいよ」
葵の目をギロリと捉え、落ち着いたトーンでたんたんと言いながらもビールのジョッキは放さない。
そうか、そうだよね。今まで考えもしなかったけどさ、霧吹さんはヤクザの若頭で(どうしようもないけど。本当にこの人で大丈夫なんだか不安だけど)私はただの大学生。住む世界が違うって言いたいんだ。それに、どうやら霧吹さんが私を撥ねたってことを私がまだ知らないと思ってるし。こんなに鈍い人が若頭で大丈夫なのかちょっと心配にもなる。
でも、ここはひとつ。
「でもまだもう一つ事件は解決していませんから! 関わりたくなくても関わっていかなきゃなんないんです。ね、霧吹さん」
「あ? ああああ、そんなこともあったなあ」
飲み続けるママは、「何、将ちゃんまだ言ってないの?」と、あきれ顔でうっすらバラシにかかっている。
し! っとジェスチャーする霧吹。見て見ぬふりをする葵はやはり何も知らないかのように残っている丼を掻っ込み始めた。食べ終えて、
「私思うんですけど、」
霧吹とママは何を言い出すのか予測も出来ず、葵の言葉に適当に耳を傾けた。
「せっかく大勝ちしたんだから、一番高いシャンパンの一つでも飲みたいですよね。ビールなんてそんなもんいつでも飲めますし。それに私フォアグラ食べられないなら他のものも食べたいし」
「へー。けっこう言うねえ、お嬢ちゃん」
くすくすと肩を揺らして笑うママに、渋い顔をする霧吹。
霧吹の頭の中には例のあの葵の失態しがぬらっとよみがえっていた。