メインクーンはじゃがいもですか?
ちょっとどころじゃない意地悪な顔を見せて、「ってことだから将ちゃん、このお嬢ちゃんの言うことも一理あるよね。私もとんと高いシャンパンなんて飲んでないから、一本開けるよ」と言って席を立ち、ママは一番高いシャンパンを取りに行った。
「いやいやいや、いいから! こいつに酒を飲ませると面倒くさいことになるから! いらないよー! 酒は飲ませなくていーからまじで」
大げさな手の動きでママを止める霧吹だが、葵は、やった! 何でも言ってみるもんだな。とばかりにママの後をひょひょいと追って行った。
「何よ将ちゃんあんた大勝ちしたのにうちに落とす金はないってのかい? いつからそんな湿気た煎餅みたいな男になったの? あー、悲しい」
「そーですそーです、やーいやーい湿気た煎餅ー」
ママの後ろに隠れて言葉をのっけた葵を『なんて可愛いお嬢ちゃん』とママの心がキュンとなった。
「言ってねーだろそんなこと、めんどくせーなもう。じゃ、いーよあれだよ、持ってこいよ」
霧吹は葵の豹変振りを恐れたわけだが、ママは葵で遊びたいらしい。
霧吹の気まぐれで大学も休まされたわけだし、このくらいしてもバチは当たらないだろうと、実は酒が好きな葵はしめしめと心で思い、わくわくした気持ちでシャンパンボトルを選び始めた。
そんな葵をママは、物珍しそうに眺め、
「何、あんたは天然? それともただのおバカなわけ?」
葵の一挙手一投足を追いながら、聞いた。
「なんですかそれ。私は思うことをしているまでです!」
シャンパンなんて分からないのに、ラベルを読んでみる。
「なんで?」
「なんで? ってだって、思っていることはやっておかないとその気持ちは腐ります! って、小学校で教えて貰ったことなんですけどね、実は」
「へー、そうなんだ。面白いこと言うねあんた。腐るねぇ。ふふ」
意味深く笑ったママは、ほれ、シャンパンなんて分からないでしょうが。貸してみな。と、葵の手からするりとボトルを抜き取りしまい、違うボトルを出してきた。
それは大事そうにしまわれていた物だったが、きっととびっきり高いのだろう。
あぶく銭は捨て金だと言わんばかりに葵に笑いかけ、これにしようと言い、席に戻った。