契約彼氏-ニセ彼氏-
「和樹……さん?」
私が言うと、和樹は「間違えたかと思った」と目を細めた。
立ち上がろうとする私を制して、和樹は「いい?」とマルボロを取り出す。
私が曖昧に頷くと、なぜかケータイをプッシュし始める。
短く小声で話すと「はい」と、それを私にさし出した。
「あたし……?」
驚きながらもケータイを受け取る私。耳元からは甲高い男性の声が聞こえてくる。
「早紀さんですか? 『トスカ』の代表の須藤です。このたびは和樹を指名していただき、ありがとうございます。……それで、どうですか、彼は」
私は困惑した。
「あの、どうって……?」
和樹はいつの間にか、外の喫煙コーナーで煙草を吸っている。
「気に入りましたか? 1回までならチェンジできますけど」
なるほど、そういう話か。
私は「いいです」と短く答えた。
「ありがとうございます。それじゃあデートを楽しんでいただく前に、軽くシステムの説明をさせていただきます」
そう言うと須藤さんはギャラのことや渡すタイミング、時間延長など「男買いの作法」を一通り教えてくれた。