契約彼氏-ニセ彼氏-
ホテルの地下にあるカフェは、会社員やOLらしき人たちで混んでいた。
女性客の何人かがチラチラと和樹を見ている。
いい気持ちだ。
カッコイイ男を所有した女だけがもてる優越感。
不意に「痛くない?」と和樹が言った。
目は包帯を巻いた私の右足首に注がれている。
「平気。もう殆ど治っているから」
私は笑顔で答えた。
それは予め用意した「設定」。
私は短大に通う女子大生。
足は先月友達とスノボに行って捻挫した。
週に3日はお小遣いを稼ぐためにキャバクラでバイトをしている。
私のウソ話を和樹は相槌を打ちながら熱心に聞いている。
話が一息つくと、「早紀ちゃん、カレシは?」と聞いてきた。
「いるよ。テニサーのセンパイ」
「じゃあ、今日のことは彼には内緒?」
「そう。縛られたくないんだ。若いんだし、色んな男と付き合ってみたいじゃん?」
わざと蓮っ葉な女を演じてみせる。
遊んでると思われた方が、後々誘いやすいから。
和樹は「そう」と笑顔で私を見つめる。
瞳が少し揺れた気がした。