契約彼氏-ニセ彼氏-
夏―私たちは何人かでカラオケボックスに繰り出した。
ひとしきり盛り上がって、その帰り、瀬戸君が私を送ることになった。
2人きりで歩く夜の道、私の胸は高鳴った。
ところが瀬戸君の話といえば秋にある文化祭のこと。
「頑張ろうな」とか「成功させような」とか優等生的なキャラを捨てようとしない瀬戸君に、私は次第に苛立ってきた。
不意に瀬戸君が「あのさ」と言った。
「ほどけてるよ……?」
見ると私の右足の靴紐が解けている。
私は急に瀬戸君を困らせたくなって、「縛って」と足を突き出した。
「さっき転んで突き指したみたい。この手じゃムリだから」
瀬戸君は「マジで?」と笑いながらも目は笑っていない。
私が黙っていると、渋々といった感じでひざまずき紐を結び始めた。
瀬戸君は紐が上手く結べずに「クソ」とか「チクショウ」とか口の中で悪態をついている。
少年みたいに無防備な背中にキュンときた。
開襟シャツの襟元からのぞく首筋に一筋の汗が流れる。