契約彼氏-ニセ彼氏-

夏―私たちは何人かでカラオケボックスに繰り出した。

ひとしきり盛り上がって、その帰り、瀬戸君が私を送ることになった。 

2人きりで歩く夜の道、私の胸は高鳴った。

ところが瀬戸君の話といえば秋にある文化祭のこと。

「頑張ろうな」とか「成功させような」とか優等生的なキャラを捨てようとしない瀬戸君に、私は次第に苛立ってきた。

不意に瀬戸君が「あのさ」と言った。

「ほどけてるよ……?」

見ると私の右足の靴紐が解けている。

私は急に瀬戸君を困らせたくなって、「縛って」と足を突き出した。

「さっき転んで突き指したみたい。この手じゃムリだから」

瀬戸君は「マジで?」と笑いながらも目は笑っていない。

私が黙っていると、渋々といった感じでひざまずき紐を結び始めた。

瀬戸君は紐が上手く結べずに「クソ」とか「チクショウ」とか口の中で悪態をついている。

少年みたいに無防備な背中にキュンときた。

開襟シャツの襟元からのぞく首筋に一筋の汗が流れる。

< 27 / 41 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop