契約彼氏-ニセ彼氏-
一瞬、私はしびれるような感覚に襲われた。
「できたよ!」
子供のように無邪気な顔を上げる瀬戸君。
その頬に手をやると、私は顔を寄せてキスをした。
瀬戸君の目が見開かれる。冷たくツルリとした唇の感触が爬虫類を思わせた。
暫くして唇を離すと、瀬戸君は「どうして……?」とうめいた。
今にも泣きそうな顔をしている。
彼がこんな顔をするのを初めて見た。
私が言葉に詰まっていると、瀬戸君は顔を伏せて肩で大きく息をした。
次に顔を上げた瞬間、そこにはいつもの明るい顔があった。
「なに、松嶋さん、もしかして酔っ払ってる? さっきカクテル、ガブ飲みしてたもんな。酒グセ悪りぃ、アハハ、サイテー…」
笑いながら歩き出す瀬戸君。
置いてきぼりにされた私は途方に暮れて遠ざかる背中を見ていた……。