捕らわれ姫




放課後の廊下は静まり返っていて少し寂しい。

歩きながら聞こえてくるのは、吹奏楽部の音合わせの音だけ。



「……遠いなぁ」



生物準備室は私たち1年の校舎から渡り廊下で隣の旧校舎に向かわなければならない。


普通に移動しても5分以上かかってしまう距離。今はこのノートのせいで、きっと10分はかかる。



「先生の……鬼…」



私達1年の生物担当の先生は、この学校で数少ない若い男の先生。
なのに、騒がれていたのは始めの1ヶ月だけ。

3ヶ月経った今、誰も先生に興味を示さなくなった。



サラサラの黒髪に黒縁メガネ。それだけなら全然いいのに、ヨレヨレの白衣がなんだかオタクの様に見えなくもない。

しかも無愛想で、この3ヶ月笑った顔を一度も見てない。


まだ30前と聞いたけど、『鉄仮面』の異名を持つこの先生は女子生徒にとって“素敵教師”にはならないみたいで。


そんな先生の受け持つ生物係になってしまった私は、時々こうして雑務をしていた。

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