薇姫/獣帝










予想だにしていなかった質問に場の空気が固まる。





ビクリと隣で怜央の体が揺れた。







獣帝の奴等は俯いていて表情が伺えないが、暁月達は苦しそうに眉をしかめていた。









「ーーーそぅ、か」






來哉はふと、隣のベッドに目を向けて目を細めた。











「………………」




「………何とも、言えないみたいっすね」





來哉は細めた目を閉じて深く息を吐いた。













來哉の隣のベッドには、藍色の髪を無造作に投げ出して、綺麗な目を閉じて見せない琉稀が居た。










ーーー目を、覚まさない。







「…お前の主治医としては外科を主に担当する真弓がやってるが、琉稀はほぼ精神問題だった。





ーーーだけど、無理矢理同じ部屋にしといた。」







そしたら、何かの気配で琉稀も暗闇から這い上がってくるかな、と思ったんだ。










………大ハズレだったけど。







目を閉じている琉稀の目について、こいつらは誰1人俺等に聞いてこなかったし、佐野の事も聞いてこなかった。








琉稀の、口から聞きたいんだと。










そう言われた時、寒気がする程の固く強い絆という物に縛られているんじゃないかと耳を疑った。




「………----」






來哉が何かを呟いたのが聞こえて「何て?」と聞き返すと、「なんでもないっす」と微笑を浮かべて首を振った。







その日は検査などで忙しくなるから帰れ、と真弓に言われて病室を後にした。




あいつ等は重度の怪我人として誰も一般人は入れなくしてあるし、泊まりも出来ない仕組みになっている。




だからこそ、それがもどかしくなる時がある。






ずっと側に居て、目が覚めた時「おかえり」と言ってやりたいのに。




隣で怜央が車のドアに手をかけながら俺を振り向いた。




それにビックリして立ち止まると怜央は落ち着いた声で「なぁ………」と呟いた。








「………來哉、どう思う?」





その言葉に少し口ごもった。





………正直、わからない。




何かが欠落している気もするし、完璧な気もする。





でも………








「………あいつは、琉稀の光となる」







怜央の言葉に、心底頷いた。







車の中に入って目を瞑ると、昔の琉稀やら今の琉稀、極道に進んでから初めて泣いたあの事件の時の表情………




全てが脳を掠めていくようだった。















ーーー俺が、こう言ったらお前は鼻で笑って「冗談はよせ、」とか言うんだろうか?























鼻で笑われてもいいさ。





…でも、伝えようとは思えねぇよ。









ガキに…好きな女にくらい、格好つけてもいいだろ?


















ーーー愛してるーーー
























俺の言えなかった、あいつへの唯一の本音。





















棗side -end-






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