たった一つのお願い


「春ちゃんはさ、“脳腫瘍”だ」




脳腫瘍とは出来る部位にもよって、時に様々な障害を引き起こす。
春陽ちゃんの場合、視覚障害を引き起こしてしまったらしい。
近くのものや、大きい物は分かるが、小さい物や遠くにある物はあまり見えないみたいだ。


だから、彼女は文字を見るでなくわざわざ俺に名前を聞いてきたんだ。


だが、不幸中の幸いな事に脳腫瘍は現在の医療で治る例が増えている。
手術の方法も様々になってきた。決して不治の病ではないはずだ。




「まぁ、春ちゃんはな。一回目の手術できちんと取り除いたはずなんだがな。また、見つかったんだ」



「そんな……」



「だろ?
おかげでまた再入院。
高校生なのに短い間しか学校に行けてない。
高校生、って言うのがどうしても…な。だから、ついつい春ちゃんには優しくしてしまう」




高校生はまだ若すぎだ、やはり。



あぁ…俺は高校時代何をしていただろうか?
どうせ本読み漁ってたんだろうな…


そう自分と重ねるとひどく申し訳ない気分になった。
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