主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
女だからこそ、胡蝶が主さまに抱いている感情の色を読み取った。

直感でそれを感じ取った息吹はなんとか主さまと晴明の前にしゃしゃり出ようとしたのだが、2人共頑として目の前に立ちはだかって譲ってくれない。

胡蝶は百鬼夜行を継ぐ器ではないと言われたが、それとも普通の妖以上に力は強い。

美しい外見に騙されているとすぐに骨まで食われて、おしまい――


「息吹、じっとしていろ。胡蝶が去れば俺も一緒に祠へ行く」


「うん、でも胡蝶さんは納得しないと思うの。主さま、さしでお話をさせて」


「…はあ?お前一体何を言って…」


「胡蝶さんと2人きりでお話がしたいの。主さまと父様は遠くに居て。どうしても心配って言うのなら私たちが見える位置に居て。近過ぎちゃ駄目だからね」


きょとんとしたのは主さまと晴明だけではなく、胡蝶も同じだった。

ふんと鼻を鳴らして口角を吊り上げると鋭い牙が見えたが、息吹は怖じ気ることなくまたにっこり笑った。


「女同士にしかわからないこともあると思うし。盗み聞きしたらすっごく怒るから」


「お前と話すつもりはない。それとも食われたいの?」


「私、知ってるんだから」


ぼそりと呟くと、胡蝶の片眉が上がった。

関心を持たせることに成功した息吹は、2人用の茣蓙を持って庭の奥にある蔵の方へと歩いて行く。

そして誘うように何度も胡蝶を振り返ってはずんずん奥へと行ってしまった。


「ああなると私の言うことも聞かぬ。胡蝶、息吹に何かすれば瞬時にそなたを殺す。潭月様も嘆かれるだろう」


「はっ、あいつが嘆くわけがないわ。十六夜…いいのね?私とお前の妻を2人きりにしてもいいの?」


探るように上目遣いで見つめてくる胡蝶を冷淡な眼差しで見つめ返した主さまは、ふいっと顔を逸らして縁側に座り、脚を組んだ。


「早く行け。言っておくがお前を見張っているのは俺と晴明だけではない。そこかしこに百鬼も居るからな」


「わかっているわ。…お前は過保護ね、知らなかった」


「……」


――胡蝶は見事に咲き誇る庭の花に目を遣りつつ息吹が消えて行った奥の方へと進む。

そして見つけた息吹は茣蓙に座ってあたたかい日差しを心地よさそうに浴びていた。


「あ、やっと来た。胡蝶さん、座って」


「…私に指図しないで」


跳ねっ返りの扱いなら慣れている。

さすが姉弟、と呟いた息吹は胡蝶と仲良くなる気満々だった。
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