主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
主さまが蔵から屋敷に戻ると、すぐさま山姫と雪男が飛び出てきた。


晴明から主さまが危ないと聞いていたので今まではらはらしながら待っていたのだが、姿を見て無事だとわかるとほっと胸を撫で下ろして涙ぐむ。


「良かった…。あたしはもう心配で…」


「……やらなければならないことが山ほどある。お前たちも駆り出す」


「何する気だよ。…もちろん息吹のことが最優先だよな?」


「……」


「何が起きたのかあたしたちに話して下さい。息吹がもうここに戻って来ないなんてあたしはいやですよ。離縁なんて絶対いやですからね」


母代りの山姫に詰られた主さまは、冷たいお茶を頼むと縁側に腰を下ろしてぽつぽつと詳細を語った。


今まで椿姫に捕らわれていたこと…息吹にそれを知られて離縁を願い出られたこと…


語っているうちにまた胸が痛んで言葉に詰まってしまう。

息吹の顔が頭をよぎる度に今すぐ会いに行かなければと思うが、それは晴明に止められているので思うように行動できない。


胸を押さえていると鋭い視線を感じて顔を上げた主さまは、雪男と目が合って互いに見つめ合った。


「本気で離縁するって言うのなら…俺の邪魔はしないよな?」


「…本気で離縁などするつもりはない。息吹に会って…ちゃんと話をする。それでも納得してもらえないのなら……いや、離縁はしない。お前の出る幕はない」


「それは息吹が選ぶことだろ。俺は…俺はずっと息吹が好きだったんだ。主さまだから諦めたけど、離縁するのなら息吹を慰めてやらなきゃ。だから俺の出る幕が来たんだよ」


――主さまの漆黒の瞳が鈍く光った。

眉間にしわを寄せてゆっくり腰を上げた主さまは、つい背筋が伸びてしまった雪男の前に立ってぐっと顔を近付けると、牙を剥いて低い声で囁いた。


「邪魔をするな。お前の出る幕など今後一切ない。…俺と息吹の件はしばらく介入するな」


言い放つと自室に戻ってごろりと寝転んだ。

明日は晴明の屋敷へ行って…会いたくないと息吹が思っていても、通い詰めるつもりでいた。


「今度は俺が通う番か…」


通い詰めて通い詰めて…想いを伝える。
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