主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
その時息吹は縁側で、晴明と話し込んでいる主さまの表情が明らかに変化したのを見ていた。


…主さまが表情を曇らせる時は、大抵自分絡みのことだと知っている。

普段は鉄面皮のくせに、意外に脆い一面があることも十分知っている息吹は、寝てしまった朔を山姫に預けて台所に立つと、腕まくりをした。


「主さま…また私のことで悩んでるのかな…」


百鬼夜行を代行してくれている銀にお礼も兼ねて稲荷寿司を作りながら、息吹もまた悩む。

朔が産まれてからは喧嘩らしい喧嘩もしていないし、子育てにも積極的で屋敷に居る時は子守りもよくしてくれる。

一体何で悩んでいるのか――

捜している泉の件なのか、それとも――


「息吹」


「ひゃっ!ちょっと主さま…いつからそこに居たの?」


考え事をしているうちにいつの間にか主さまが背後に立っていて驚いた息吹が目を見張ると、主さまはふっと微笑んで皿の上の稲荷寿司をひとつ手にして口に放り込んだ。


「随分前から居たんだが。…どうした?考え事か?」


「えっ?ううん、違うよ?……主さまは父様と何の話をしてたの?」


「…大したことじゃない。……息吹」


振り向こうとすると――突然主さまに背後から抱きしめられた。

息吹の手から稲荷寿司が落ちて床に転がり、耳元で震える息を吐く主さまの様子に、やはり自分のことなのだと悟った。


「主さま…どうしたの?大丈夫?」


「…何でもない。こうしたかったからしただけだ」


「そう?今銀さんに稲荷寿司作ってるんだから邪魔しないでっ」


「銀に?…必要ない。俺が全部食う」


妖は人の食べ物など口にしないが、主さまも銀も積極的に食事を共にしてくれる。

銀は若葉のために――

そして主さまは――


「銀さんと仲良くね。ああほら主さま、朔ちゃんが泣いてるからあやしてきてあげて」


「わかった」


主さまを遠ざけた息吹は、笑みを消してため息をついた。


「父様に聞いたら教えてくれるかな…ううん、絶対教えてくれないよね…」


息吹もまた悩んだが、再び笑顔を作ると稲荷寿司を振舞うために縁側へと戻った。
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