主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
その日の夕暮れ時、きゃっきゃと声を上げて笑っている朔を息吹があやしている間、庭に降りていた晴明は起きてきた主さまを手招きして呼びつけた。
「十六夜、こちらへ」
「…なんなんだ、用があるならお前が…」
「こちらへ」
繰り返された口調は少し強く、縁側に座っていた息吹が顔を上げたので気まずくなった主さまは庭に降りて晴明に歩み寄る。
泉の存在を見出した晴明は、じっとこちらに視線を注いでいる息吹に笑いかけて主さまだけに聞こえるような小さな声で打ち明けた。
「“憑き祓いの泉”の件だが」
「…まだ見つけていないぞ」
「わかっている。その泉を見つけた時の話をしているのだ」
晴明の横顔は緊張しているように見えて、そういう時はいい報告ではないことを長年の付き合いで知っている主さまも表情を曇らせた。
「…で?」
「息吹は連れて行かぬ方がいい」
「…理由は?」
「息吹は木花咲耶姫の転生した姿だと言うが…“憑いている”というわけではないにしろ、もし…万が一息吹が興味本位で泉の水に手を触れてしまえば…」
「………どうなる?」
主さまの表情が明らかに凍り付いた。
晴明は、まだこちらをじっと見ている息吹に安心させるように微笑みかけると、真っ赤な空を仰いで唇を動かさずに囁いた。
「ただの人となるだろう。寿命は人と同じになり、確実にそなたより先に…死ぬ」
「……!そんな…馬鹿な…」
「可能性としては有り得る。故に、息吹は泉に連れて行かぬよう」
――共に長い人生を――
それが適い、子にも恵まれて長い時を共に歩めることに最大の喜びを感じていた主さまは、奈落の底に突き落とされた気がしてよろめく。
息吹は、好奇心が強い。
椿姫とは懇意にしているため、恐らく駄々をこねてついて行くと言ってきかないだろう。
「晴明……俺は…俺はどうすれば…」
「泣けど叫べど、拒め。私は愛娘を今後数十年のうちに失いたくはない。あの子がどれほど懇願しても拒否を。いいね?」
「………わ、わかった…」
目の前が真っ暗になり、息吹が霞んで見えた。
「十六夜、こちらへ」
「…なんなんだ、用があるならお前が…」
「こちらへ」
繰り返された口調は少し強く、縁側に座っていた息吹が顔を上げたので気まずくなった主さまは庭に降りて晴明に歩み寄る。
泉の存在を見出した晴明は、じっとこちらに視線を注いでいる息吹に笑いかけて主さまだけに聞こえるような小さな声で打ち明けた。
「“憑き祓いの泉”の件だが」
「…まだ見つけていないぞ」
「わかっている。その泉を見つけた時の話をしているのだ」
晴明の横顔は緊張しているように見えて、そういう時はいい報告ではないことを長年の付き合いで知っている主さまも表情を曇らせた。
「…で?」
「息吹は連れて行かぬ方がいい」
「…理由は?」
「息吹は木花咲耶姫の転生した姿だと言うが…“憑いている”というわけではないにしろ、もし…万が一息吹が興味本位で泉の水に手を触れてしまえば…」
「………どうなる?」
主さまの表情が明らかに凍り付いた。
晴明は、まだこちらをじっと見ている息吹に安心させるように微笑みかけると、真っ赤な空を仰いで唇を動かさずに囁いた。
「ただの人となるだろう。寿命は人と同じになり、確実にそなたより先に…死ぬ」
「……!そんな…馬鹿な…」
「可能性としては有り得る。故に、息吹は泉に連れて行かぬよう」
――共に長い人生を――
それが適い、子にも恵まれて長い時を共に歩めることに最大の喜びを感じていた主さまは、奈落の底に突き落とされた気がしてよろめく。
息吹は、好奇心が強い。
椿姫とは懇意にしているため、恐らく駄々をこねてついて行くと言ってきかないだろう。
「晴明……俺は…俺はどうすれば…」
「泣けど叫べど、拒め。私は愛娘を今後数十年のうちに失いたくはない。あの子がどれほど懇願しても拒否を。いいね?」
「………わ、わかった…」
目の前が真っ暗になり、息吹が霞んで見えた。