主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
「どうしよう…こんなの見られたら恥ずかしい…!主さまの馬鹿!」


「ふん、俺の知ったことか。俺のものに俺のものだという印をつけて何が悪い?」


むっとなった息吹は、箪笥の引き出しを開けて中から桃色の洒落た手拭いを引っ張り出して首に巻いてみた。

そうすると首筋に散りばめられた唇の痕はなんとか隠すことができたが…義経と会っただけで何故こんな見える場所にこんなものをつけられなければならないのか。


考えれば考えるほどにむっとなってしまった息吹は、素知らぬ顔で寝転んだ主さまの腹の上にいきなり乗っかって吃驚させた。

だが息吹は、にんまり。


「な…っ、腹から降りろ!お、お前まさか…」


「そう、そのまさかです。だって私は主さまのものなんでしょ?っていうことは…主さまは私のものなんだよね?」


「だ、だから…なんだ?」


「だから。こうしてやる!」


息吹を攻撃するなどもっての外なのでどうすればいいのか動揺して身体が動かなくなってしまった主さまの首筋目がけて息吹が顔を近付ける。

驚きに目を見張る主さまのしなやかな首筋に同じ痕跡をつける――

本当は恥ずかしくて仕方なかったのだが、絶対仕返ししてやろうと決めていた息吹は、ひとつだけ鮮やかな所有印を残した。


「じゃあ今夜主さまは百鬼夜行に出れないのかな、どうする?可愛い手拭い貸してあげようか?」


「…!お前…覚えてろよ…」


「なにその捨て台詞。主さまなんか怖くないもん。ねー、怖くないよねー」


「きゃっきゃっ」


床に寝かしつけていた若葉が珍しく笑い声をあげて手足をばたばたさせると、無性に愛しくなった息吹は若葉を抱っこしてぼそりと本音を呟いた。


「赤ちゃん…欲しいなあ…」


「……そんなに欲しいか?俺も努力するが、お前もするべきだ。朝も晩も関係ない、俺を拒むな」


肘で頭を支えて横になった主さまの背中を正座してじっと見つめていると…耳が真っ赤になっていることに気付いた。

かっこいいことを言っておきながらもやっぱり主さまは主さま。


「主さま…耳が赤いよ?」


「…うるさい。とにかく俺の言うことを聞いていれば間違いない。そうだろう?」


「はい。私、男の子でも女の子でもどっちでもいい。主さまは?」


「…男なら後を継がせて隠居できる。そういう点では、男だな」


息吹は団扇で主さまに風を送ってやりながら微笑んだ。

色々努力してみようと決めて、うにうにしている若葉を膝に乗せた。
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