主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
新鮮な魚が大量に入った桶を両手に抱えた息吹が屋敷に戻って来ると、それを出迎えたのは――主さまだった。
まだ寝ている時間帯のはずなのに…と訝しみながらも縁側に桶を降ろして腰を叩きながら笑顔を向ける。
「主さまもう起きてたの?もうちょっと寝ててもいいんだよ?」
「…寝ていられるものか。お前…違う匂いがするぞ」
障子を開け放った居間で煙管を噛んでいた主さまの眉間には皺が寄り、機嫌が悪いのがわかったが――息吹は躊躇することなく持ち帰って来た桶を指して主さまの腕に抱き着いた。
「新鮮なお魚が売られてたから買ってきたの。あと主さまが怒ってる理由がわかんない」
「…義経とはどんな話をした?何故お前の身体から男の匂いがするんだ」
「あ…肩を触られたからかな…。で、でもっ、肩だけだから!なんにもされてないから怒る必要なんてないよ」
「ちょっとこっちに来い」
有無を言わさず息吹の手折れそうな細い手を掴んで夫婦共同の部屋に連れ込んだ主さまは、薄暗い中――瞳の中に青白い炎を燈らせていた。
怒っているせいか昂っているせいか…どちらかわからなかったが、息吹は背伸びをすれば唇が触れ合う距離にある主さまの瞳に魅入られて瞬きすらできなくなる。
とてもとても綺麗な色で、吸い込まれてしまいそうになる。
「あ、あのっ、主さま、明日も義経さんに会ってもいい?相模たちの近況がちょっと聞けたからもっと聞きたくて…」
「…お前が俺のものだという所有印をつけておく。それでもいいならば、会いに行け」
主さまにじっと見つめられて無性に恥ずかしくなった息吹が早口でまくし立てていると、いきなり肩を強く押されて座らされた。
途端――
「…っ!ちょ、主さま、駄目…!」
首筋に咲く赤い花――
主さまの唇が首筋を強く吸い、息吹の首筋にいくつもの花が咲く。
身体に力が入らなくなって押し倒されると、視界には主さまの着物の胸元が乱れて引き締まった胸が見えた。
これから何をされるのか、と緊張してぎゅうっと瞳を閉じたが――主さまの含み笑いが降ってきた。
「こんな昼間からされるのは嫌なんじゃなかったのか?」
「!だ、だって…」
「鏡を見てみろ。これから数日間お前は外に出れないだろう。皆からそれを見られたければ行くがいい」
慌てて手鏡を覗き込むと…首筋にはぽつぽつと赤い痣のようなものが散りばめられていた。
主さま、ご満悦。
まだ寝ている時間帯のはずなのに…と訝しみながらも縁側に桶を降ろして腰を叩きながら笑顔を向ける。
「主さまもう起きてたの?もうちょっと寝ててもいいんだよ?」
「…寝ていられるものか。お前…違う匂いがするぞ」
障子を開け放った居間で煙管を噛んでいた主さまの眉間には皺が寄り、機嫌が悪いのがわかったが――息吹は躊躇することなく持ち帰って来た桶を指して主さまの腕に抱き着いた。
「新鮮なお魚が売られてたから買ってきたの。あと主さまが怒ってる理由がわかんない」
「…義経とはどんな話をした?何故お前の身体から男の匂いがするんだ」
「あ…肩を触られたからかな…。で、でもっ、肩だけだから!なんにもされてないから怒る必要なんてないよ」
「ちょっとこっちに来い」
有無を言わさず息吹の手折れそうな細い手を掴んで夫婦共同の部屋に連れ込んだ主さまは、薄暗い中――瞳の中に青白い炎を燈らせていた。
怒っているせいか昂っているせいか…どちらかわからなかったが、息吹は背伸びをすれば唇が触れ合う距離にある主さまの瞳に魅入られて瞬きすらできなくなる。
とてもとても綺麗な色で、吸い込まれてしまいそうになる。
「あ、あのっ、主さま、明日も義経さんに会ってもいい?相模たちの近況がちょっと聞けたからもっと聞きたくて…」
「…お前が俺のものだという所有印をつけておく。それでもいいならば、会いに行け」
主さまにじっと見つめられて無性に恥ずかしくなった息吹が早口でまくし立てていると、いきなり肩を強く押されて座らされた。
途端――
「…っ!ちょ、主さま、駄目…!」
首筋に咲く赤い花――
主さまの唇が首筋を強く吸い、息吹の首筋にいくつもの花が咲く。
身体に力が入らなくなって押し倒されると、視界には主さまの着物の胸元が乱れて引き締まった胸が見えた。
これから何をされるのか、と緊張してぎゅうっと瞳を閉じたが――主さまの含み笑いが降ってきた。
「こんな昼間からされるのは嫌なんじゃなかったのか?」
「!だ、だって…」
「鏡を見てみろ。これから数日間お前は外に出れないだろう。皆からそれを見られたければ行くがいい」
慌てて手鏡を覗き込むと…首筋にはぽつぽつと赤い痣のようなものが散りばめられていた。
主さま、ご満悦。