主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-②
翌朝息吹はござを脇に抱え、お供え物と自分用の小さなおにぎりを籠に入れて裏山を上って地主神に会いに行っていた。


「今日は橙色の可愛い手拭いを持ってきました。…ねえ地主神様、主さまったらひどいの。私のためとはいえ勝手なことして…。困った人なんだから」


ござを敷いてその上に正座した息吹は、地主神を見上げながら主さまに対する愚痴を炸裂。

こんな愚痴を晴明にしてしまえば晴明はすぐに主さまをいじめにかかるだろうし、主さまに関する愚痴は正直誰にも言えない。


「地主神様も長い間主さまに放置されちゃって本当にごめんなさい。でも反省していると思うし、また一緒に来ますから許してあげて下さい」


…はたから見ると、ただの石に話しかけている奇妙な光景だが、息吹は真剣な顔で何度も頭を下げていた。

愚痴とはいっても片手で数えるほどしかない。

主さまは本当に優しくしてくれるから、昨日はむかっときたが…それも一瞬だけのこと。

すぐに謝りに来てくれたし、怒りは持続しない。


「この辺も少し枝を刈った方がいいのかなあ?地主神様昨日は登り口の所だけ少し綺麗にしました。少しずつだけどこれからも綺麗にしていきますね。ああ、涼しい…」


さあっと涼しい風が吹いた。

汗が渇き、腰を上げた息吹は懐から小さめの手拭いを出して、地主神の宿る石を磨いてあげた。

屋敷にはまだ寝ている若葉を残しているので、少し気になりながら若葉のことを守ってもらえるようにお願いをした。


「小さな女の子を預かっているんです。とっても可愛くて…守ってあげて下さい。私も早く赤ちゃんが欲しいなあ…」


ぼそりと呟いた時、なんとなく地主神の石があたたかくなった気がした。

目を見張った息吹は、ぐぐっと顔を近付けてその変化を見守ったが…一瞬の出来事で、また石はすぐに冷たくなった。


「ど、どうしたんだろ…。私、お願いしすぎたのかなあ…?地主神様ごめんなさい、欲張りすぎました。主さまと私、子作り頑張ります!」


恥ずかしくて誰にも言えない子作り宣言をしてのけた息吹は、笑顔で山を下っていった。

地主神に会いに行って話をすると、なんだか心が軽くなる。


裏山を降り切って急いで庭に回り込むと、ちょうど主さまが帰って来た所に出くわした。


「主さまお帰りなさい。ご苦労様でした」


主さまがはにかむ。

息吹は主さまの腕にぶら下がると一緒に部屋へ入って行った。
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