赤い月 終
先に目覚めたのは、ゼンキの中の千景だった。
狂おしくうさぎの名を繰り返す景時の心の声に、呼び起こされたのだ。
そして千景はゼンキを叩き起こし、息子を助けて欲しいと懇願した。
…
正しくは、息子の愛する女を助けて欲しい、と。
千景もわかっているはずだ。
鏡を破壊すれば、景時をここに残したまま、この空間は閉じる。
いつか運良く出られたとしても、もっと過酷な運命が‥‥‥
それでも千景は言った。
命を賭する価値のある愛を、息子は見つけたのだと。
「オマエノ願イヲ 叶エロト言ッタノハ、千景ダ。
俺ハ… 反対ダ。
俺ガ大切ナノハ、千景ト オマエダケ。
他ハ ドウデモイイ。
デモ、千景ハ 言イ出シタラ 聞カナイ奴ダカラ…」
「え? 母さんが?
ドコにいンの?」
「ココニ イル…」
胸を押さえたまま、肩を落としたゼンキはチラリと景時を見た。