指先で紡ぐ月影歌




刀よりも算盤を嗜む方が良しとされた太平の世とはいえ、俺の心を奪い動かしたのはやっぱり刀で。

父の持つそれに、周りの大人たちのそれにどれほど憧れたか。


今考えると、親父もまた剣を持つことが好きだったのかもしれない。


長倉家の次男坊だった俺の親父。

俺に家督を継ぐ前の自分の姿を重ねていたのかもしれないと今更ながらに思う。


教養もしっかり学ぶことを理由に、親父は俺に竹刀を握らせてくれた。



そして安政三(一八五六)年。


十八歳で本目録を授けられた俺は、その年元服し名を栄治から新八へと改めたのだった。




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