指先で紡ぐ月影歌
天保十(一八三九)年。
江戸にある松前藩中屋敷の長屋で俺は生まれた。
当時、福山藩主松前伊豆守屋敷があったのは下谷三味線堀。
俺の親父は藩の江戸定府取次役という役職に就いていた。
名前を見ると何ともお堅い感じだが、将軍様と松前の老中たちとの連絡係みたいなものだったと俺は思っている。
まぁつまり、俺は生粋の江戸っ子なわけで。
序でにそこそこな家筋なわけだ。
家系図的には藩主外祖父だからな、一応。
そんな父に迫り、俺が剣術の道に入ったのは八歳の時。
あの空気を切る音に魅せられた。
俺の人生はあの時決まったんだ。
我ながら、なかなかの腕白坊主だったと思う。